「資産を取り崩しながら生活する」という言葉に、漠然とした不安を感じたことはありませんか。
トリニティスタディという有名な研究により、「年間4%の取り崩しなら資産が長期間持続する」という4%ルールは、FIRE業界で広く知られています。理論上は正しいはずなのに、なぜ私たちは資産が減っていくことに抵抗を感じるのでしょうか。
この記事では、FP2級保有者の視点から、月20万円(税引後)の生活費を得るために、
- eMAXIS Slim S&P500を4%ルールで取り崩す戦略
- カバードコールETF(7銘柄分散型)の配当で得る戦略
この2つに、それぞれいくらの資産が必要なのかを具体的な数字で比較します。さらに「同じ資産額」を持っていた場合に何が起こるかという、驚きの数字もお見せします。
私自身、資産を取り崩すことには強い心理的負担を感じるタイプです。その正直な感覚も含めて、どちらを選ぶべきかを考えていきます。
各配分パターン別の具体的な配当シミュレーションはこちらで確認できます。
→【関連記事】【FP2級が計算】カバードコールETF5つの配分パターン別、1000万〜5000万円の月額・年間配当収入シミュレーション
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「資産を取り崩す」ことに、なぜ私たちは抵抗を感じるのか
トリニティスタディと4%ルールとは何か
トリニティスタディとは、1998年に米トリニティ大学の教授らが発表した研究で、退職後の資産取り崩し戦略を分析したものです。
この研究から導かれたのが「4%ルール」です。退職時の資産から毎年4%を取り崩して生活費に充てれば、過去の市場データに基づくシミュレーションで、30年間資産が枯渇する可能性が低いとされています。
4%ルールが「正しい」とされる理由
4%ルールの根拠は、過去の米国株式市場の長期的な実績データです。
S&P500の歴史的な平均リターンは年率7%前後とされており、そこから取り崩し率4%を引いても、インフレ調整後でなお資産が成長する可能性が高いという考え方です。理論的には合理的な戦略として、多くのFIRE系の書籍やブログで推奨されています。
月20万円を得るために必要な資産を計算する

①4%取り崩し戦略(eMAXIS Slim S&P500)の必要資産
月20万円(税引後)を得るために必要な年間取り崩し額を計算します。
20万円×12ヶ月=240万円(税引後の年間必要額)
eMAXIS Slim S&P500は分配金を出さない投資信託のため、生活費を得るには売却(取り崩し)が必要です。売却益には約20%の課税が発生するため、売却益の半分が利益部分だと仮定すると、税引後240万円を確保するには税引前で約267万円相当の売却が必要になります。
必要資産:267万円 ÷ 4% = 約6,675万円
②カバードコール戦略(7銘柄分散型)の必要資産
記事25で計算した配分①(QQQI3・SPYI2・JEPQ2・JEPI1・AIPI1・CEPI0.5・453A0.5)の税引後実質利回りは約10.7%です。
必要資産:240万円 ÷ 10.7% = 約2,243万円
【結果】必要資産に4,400万円超の差が生まれる理由
同じ「月20万円」という目標に対して、4%取り崩し戦略は約6,675万円、カバードコール戦略は約2,243万円の資産が必要という結果になりました。差額は約4,432万円です。
なぜこれほどの差が出るのか、次の章で詳しく見ていきます。
なぜこれほど差が出るのか:2つの戦略の本質的な違い
4%ルールは「資産を減らさず長持ちさせる」設計
4%ルールの本質は、「資産を大きく減らさずに、長期間(30年以上)にわたって持続させる」ことを目的とした、極めて保守的な設計です。
取り崩し率を低く抑えることで、市場が下落した年でも資産が枯渇しないようにする。これが4%ルールの本来の目的であり、必要資産が大きくなるのは当然の結果です。
カバードコール戦略は「配当として早くリターンを受け取る」設計
一方、カバードコール戦略は、保有資産から生まれる配当(プレミアム収入)をそのまま受け取る設計です。
資産の成長を犠牲にしてでも、毎月の現金収入を最大化することに特化した戦略のため、同じ収入を得るための必要資産が少なくなります。
同じ土俵で比較しているわけではないという注意点
ここで重要な注意点があります。
この2つの戦略は、目的と前提がまったく異なります。4%ルールは「資産を減らさず長期間維持する」ことを重視し、カバードコール戦略は「配当として早くリターンを受け取る」ことを重視しています。
必要資産が少ないからといって、カバードコール戦略が単純に「優れている」というわけではありません。この点を踏まえた上で、次の比較を見てください。
【驚きの数字】同じ資産(約6,675万円)を持っていたら何が起こるか

4%取り崩しなら月20万円、カバードコール戦略なら月約59.5万円
仮に①の必要資産である約6,675万円を、そのままカバードコール戦略(配分①)に投じた場合、どうなるでしょうか。
6,675万円 × 10.7% = 約714万円/年
714万円 ÷ 12ヶ月 = 約59.5万円/月
同じ6,675万円という資産を持っていても、戦略によって月20万円と月59.5万円という約3倍の差が生まれます。
この差をどう解釈すべきか
この数字を見ると「カバードコール戦略の方が圧倒的に優れている」と思われるかもしれません。
しかし正確に言えば、この差は「リスクを取ってリターンを早く受け取るか」「リスクを抑えて資産を長持ちさせるか」という、戦略の方向性の違いを反映した結果です。カバードコール戦略の高い利回りには、ROC(元本取崩し)や運用歴の浅さといった構造的なリスクが伴っていることを忘れてはいけません。
私が「取り崩し」に感じる心理的負担について正直に話す
資産が目に見えて減っていくことへの抵抗感
ここからは、FP2級としての分析ではなく、私自身の正直な感覚をお話しします。
私は資産を取り崩すという行為に、強い心理的な抵抗を感じるタイプです。資産が「減っていく」という事実そのものが、頭ではわかっていても精神的なストレスになります。
これはFXやレバレッジETFで失敗した経験とも関係しているかもしれません。資産が減ることへの恐怖は、私にとって特別に重いものです。
「いくら売ればいいか」を毎年自分で判断する重さ
4%ルールは理論上シンプルですが、実際の運用では「今年はいくら売るべきか」「市場が下がっている年に売るのは損ではないか」という判断を、毎年自分で下す必要があります。
この判断の重さは、想像以上に大きなストレスになると感じています。市場が好調な年は問題ありませんが、下落した年に「資産を売ってでも生活費を確保する」という決断は、心理的に簡単ではありません。
配当という形で「減らさず受け取る」ことの心理的な安心感
一方、カバードコール戦略のように、資産そのものを売却せず、配当という形で収入を受け取る仕組みには、心理的な安心感があります。
「資産を減らしている」という感覚がなく、「資産から生まれた収入を受け取っている」という感覚で生活費を確保できる。この心理的な違いは、数字には表れませんが、実際の生活の質に大きく影響すると考えています。
それでも知っておくべきカバードコール戦略のリスク
ROC(元本取崩し)という、もう一つの「見えない取り崩し」
ここで重要な事実をお伝えしなければなりません。
カバードコールETFの中には、分配金の一部(または大部分)がROC(元本取崩し)で構成されている銘柄があります。記事19・20で解説した通り、特にAIPI・CEPIはこの傾向が強い銘柄です。
つまり「資産を減らしていない」という感覚を持っていても、実質的には資産(元本)が少しずつ減っている可能性があるという、見えない形での取り崩しが起きている場合があります。これは4%ルールの「明示的な取り崩し」とは異なりますが、本質的には似た現象です。
インデックス投資の方が長期的な資産成長は期待できる
カバードコール戦略は上値を売却する性質上、市場の大きな上昇を取り込めません。
長期的な資産成長という観点では、インデックス投資(eMAXIS Slim S&P500)の方が優れている可能性が高いです。4%ルールで取り崩しながらも、資産自体は市場の成長とともに増えていく可能性があるという点は、カバードコール戦略にはない強みです。
ROC・AIPI・CEPIのリスクについては以下の記事で詳しく解説しています。
→【関連記事】AIPI・CEPIとは?利回り35〜41%の高配当ETFを40代が実際に買った結果とリスクを正直に報告
FP2級としての結論:どちらを選ぶべきか
「さほど変わらないなら、心理的負担が少ない方を選ぶ」という考え方
ここまでの分析を踏まえて、私の考えをお伝えします。
両戦略にはそれぞれ異なるリスクがあります。4%取り崩し戦略には「取り崩しの心理的負担」というリスクがあり、カバードコール戦略には「ROC・運用歴の浅さ・インフレ耐性の弱さ」というリスクがあります。
リスクの種類が異なる以上、どちらが絶対的に優れているとは言えません。しかし「リスクの大きさがさほど変わらないのであれば、自分にとって心理的負担が少ない方を選ぶ」という考え方は、合理的な判断基準の一つだと思います。
私自身の選択:二刀流という第三の道
私自身は、この2つを「どちらか一方」ではなく、両方を組み合わせる二刀流戦略を取っています。
NISAでeMAXIS Slim S&P500を積み立てながら、特定口座でカバードコールETFの配当収入も積み上げる。資産の成長(インデックス投資)と心理的な安心感(配当収入)の両方を、バランスを取りながら追求するという考え方です。
記事22・23で解説した資産階層別の戦略も、この二刀流の発想を土台にしています。
退職後の資産階層別ポートフォリオ戦略はこちらで詳しく解説しています。
→【関連記事】【FP2級が解説】60歳退職、資産1億円・5,000万円・2,000万円別カバードコール戦略
FIRE前に、私自身が実験台になる理由

ROCリスクは「理論」だけでは語れない
ここまでROC(元本取崩し)のリスクについて解説してきましたが、正直に言うと、このリスクが実際にどの程度のスピードで・どの程度の規模で進行するのかは、長期的な実績データがまだ十分ではありません。
AIPI・CEPIのような銘柄は2024年設定と運用歴が浅く、本当の意味でのリーマンショック級の下落を経験していません。理論上のリスクは説明できても、「実際にどうなるか」は誰にも断言できないのが実情です。
FIRE達成前の今だからこそ、少しずつ実験できる
だからこそ私は、FIREを達成する前のこの段階で、カバードコールETFを少しずつ実際に購入し、長期的にどのような値動き・配当の推移をたどるのかを、自分自身の資産で検証していくことにしています。
これは記事14・19で公開してきた購入記録の延長線上にある取り組みです。もしFIRE後に「実は資産が想定以上に目減りしていた」と気づいても、その時点では生活費の柱を失うという致命的なダメージになりかねません。
FIRE前の今、まだ収入がある段階だからこそ、リスクを取って実験し、その結果を正直に記録しておくことに意味があると考えています。
このブログで実験結果をすべて公開していく
カバードコールETFのNAV(基準価額)がどのように推移するか、ROCが実際にどの程度資産を目減りさせるか、相場の波の中で配当がどう変動するか。
これらを、毎月のポートフォリオ更新記事(記事5・記事14・19など)を通じて、良いことも悪いことも包み隠さず記録し続けます。理論上のリスクが、実際にどう現れるのかを、私自身の資産を使ったリアルタイムの実験として、読者の皆さんと共有していきたいと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q:4%ルールは本当に資産が長持ちするのですか?
A:トリニティスタディをはじめとする過去の研究では、過去の米国市場データに基づくシミュレーションで、30年間の資産持続性が高いとされています。ただしこれは過去のデータに基づく経験則であり、将来の市場環境を保証するものではありません。
Q:カバードコール戦略の方が必要資産が少ないなら、こちらを選ぶべきですか?
A:必要資産が少ないことは事実ですが、それは高いリスク(ROC・運用歴の浅さなど)を取っていることの裏返しでもあります。単純に必要資産の少なさだけで判断せず、両戦略のリスクの性質を理解した上で選択することをおすすめします。
Q:二刀流戦略は具体的にどんな配分がおすすめですか?
A:記事22で解説した通り、資産階層によって適切な配分は異なります。一般的な目安として、カバードコールETFへの配分は資産全体の15〜25%程度に留め、残りはインデックス投資・現金・債券などでバランスを取ることをおすすめします。
まとめ:取り崩しの負担を正しく理解した上で選択する
- 4%取り崩し戦略の必要資産は約6,675万円、カバードコール戦略は約2,243万円
- 同じ約6,675万円の資産があれば、カバードコール戦略では月約59.5万円の配当が期待できる
- この差は「資産を長持ちさせる」か「リターンを早く受け取る」かという設計思想の違い
- カバードコール戦略にはROC・運用歴の浅さというリスクが存在する
- 取り崩しの心理的負担は、数字には表れない重要な判断材料
- 私はFIRE達成前の今だからこそ、自らの資産で実験を続け、結果を正直に公開していく
「資産を取り崩す」ことへの抵抗感は、決して非合理な感情ではありません。
両戦略のリスクの性質を正しく理解した上で、自分にとって心理的に続けやすい方法を選ぶことが、長期的に資産運用を続けるための重要な鍵だと考えています。
私自身の実験記録は、今後もこのブログで包み隠さず公開していきます。
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免責事項
当ブログの情報は筆者個人の経験・見解にもとづくものであり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。本記事の計算は一般的なモデルケースに基づく参考値であり、将来の運用成果を保証するものではありません。投資判断は、必要に応じてファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談の上、ご自身の責任において行っていただきますようお願いします。

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